お決まりの注文(1483字)

「39番でお待ちの方―」

 差し出されたトレーを見て、げんなりしてしまう。

 頼みすぎたかもしれない。ポテトふたつにアイスティー。いざ目の前に現れると予想以上に迫力がある。

 席で待っている啓太のバーガーとコーヒーが、スタイリッシュに見えてしかたなかった。


「なんでふたつなん?」

 席に座るなり早速訊かれた。同じものをふたつ頼むのは、それだけ珍しい行為なのかもしれない。

「間違いがないからだよ」

 啓太は几帳面に包み紙を開けている。私もアイスティーを飲みつつ、話を続ける。

「欲しくて注文したはずなのに、実際に食べたらなんか違うなってなることが多くてさ」

「ん゛ー」

 ダブルチーズバーガーを頬張りながら、理解できないという顔をしている。

 普通の人にとっての当たり前が自分に当てはまらないことは、よくある。その逆もまた然り。

「さっきまでアイスティーの気分だったのに、今は炭酸がよかったなーって思ってるし」

 言葉にしてみたら、いよいよ自分がアイスティーを選んだ理由がわからなくなった。

 5分前の私と、今の私。この場合どちらに責任があるのだろうか。

「自分の本当に食べたいものがわからないってこと?」

「うん、まあそうかな。でも、ポテトだけは裏切らない」

 そう言いながら口にしたポテトは、やはり思った通りの味がした。

「裏切らないとも言えるし、期待を超えないとも言える」

「嬉しいことだよ、予想通りなのは」

 

 食べてみたら、違った――。

 食事に限らず、私はこの感覚を抱くことが多い。

 心躍らせて買ったベースもなんか違った。届くまであんなに楽しみに動画で予習したのに。

 これだ!と思ったブログも違った。ややこしい設定を終えてから、書きたいことがないって気づいた。

 私は大学ノートをたくさん持っている。けれど、大半は最初の数ページしか使っていない。

 根気がなくて続けられないんじゃなくて、始めた瞬間に「これじゃない」ってなる。

 だから想定内のこの味が、たまらなく愛おしい。


 ガッシャン――!

 突然背後から大きな音がした。どうやら店の反対側で、古稀くらいのくらいのおばあさんが転んだようだ。

 どこからともなく店員がやってきて、立ち上がったおばあさんに心配そうに声をかける。立ち姿に反して、おばあさんの声はとても快活だった。店員もにこやかな表情に戻り、手際よく床にこぼれたドリンクの掃除をする。二人があまりにもいい表情をしているものだから、久しぶりに会えた祖母と孫を見ているようだった。

 体を向き直ると、啓太もやわらかい表情をしていた。

「俺、足りないから注文してこようかな」

 相変わらず食べるのが速い。こっちはポテトがひとつ、手つかずで残っている。

「ポテト食べていいよ」

「あ、うん。ポテトもちょっと貰うけど。なんか頼む?」

「んー、いっかな」

「おっけ。行ってくるわ」

 啓太が席を立って少しして、私はもう一度後ろを振り返った。

 啓太はレジの前でメニューを見上げていた。まだ何を頼むか決めかねているようだ。

 奥の席にいたおばあさんの姿はもうなかった。飲み物がこぼれた場所も、もう見分けがつかない。

 啓太は何を注文してくるだろう。私はポテトをつまみながら考えた。

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