「それでいうとさ」
話したかった話題を思い出したというふうに、杏奈は声のトーンを上げた。
「動物関連の質問って、難しいのが多くない?」
テーマの急変ぶりに話のつながりが見えない。
「動物関連?」
「好きな動物は?とか、自分を動物に例えると?とかさ」
「なるほど…?」
杏奈の家は猫を飼っている。私の記憶違いでなければ、彼女の希望で飼い始めたはずだ。
「杏奈って猫好きじゃなかったっけ」
「うん。まあ実際はそうなんだけどさ」
「なんていうか、うまい返しというか面白味のある答えが難しいなって」
「あー…。猫だとありきたりすぎるってことね」
「うん。無難すぎて記憶に残らなそう」
意図がなんとなく読めてきた。相手を楽しませる回答を考えたいということか。
そもそもの質問からして面接のようなシーンを想定しているのかもしれない。それでも、発想というか視点に彼女らしさを感じる。
「ちょうどいい動物って、案外見つからないんだよね」
そう言われて私も考え始めたけれど、確かに難しいかもしれない。
「無難でもダメだし、動物博士になってもダメってことだよね」
「そうそう」
「珍しすぎなくて、好きになれる特徴がある動物」
「あとできれば、あんまりシブすぎない動物」
確かに仕込みなしでは、ちょうどいい返事はできなそうだ。
私たちはしばらく一緒になって”好きな動物”を考え込んだ。
私からいくつか提案したものは、すべて却下された。
「レッサーパンダとかどうかな?威嚇のポーズがかわいいじゃん」
「さすがにあざとすぎるよ。かわいいけど、主張が強すぎるとちょっとね」
「うーん…。ペンギンは…ちょっと無難?」
「ペンギンがかわいいっていう人多いけど、私には理解できない。ペンギンはこわいよ」
「あと七海、一回かわいいから離れてもいいかも」
「フラミンゴとか…?」
「特徴的で個性的だけど、私には合わないかも」
「まあ、派手な人にはいいチョイスかもね」
「あえてのゾウは?」
「うーん…ゾウ好きを名乗るのは、もう少し大人になってからでいいかな」
うーん。なかなかに難儀だ。
だけど杏奈の指摘にも納得できる部分もあるだけに、もっといい動物がいる気もする。世界にはいろんな動物がいる。さすがに条件を満たす動物がいないことはないだろう。
「さっきからよく思いつくね。全然動物出てこなくなった」
確かに、もうずいぶん長いこと考えている。
「私は頭の中で動物園をたどって思い出してる」
「なるほどね」
杏奈はスマホで動物園の画像検索を始めた。
しばらくして候補を見つけたようだ。
「ねえ!シカは?すごくちょうどよくない?」
その言葉を聞いて反射的に体が固まった。
「それに七海ってシカ好きじゃなかったっけ?」
呼吸が乱れ、息がうまく吸えない。
杏奈は興奮していて私に気づいていない。
「修学旅行のときとかさ、鹿煎餅いっぱいあげてたよね」
指先から熱がひいていくのがわかる。
「七海が珍しく感情をむき出しに楽しんでたから、あのと…」
「七海!?」
すこし寒気がする。
「顔真っ白だよ!?大丈夫?」
「いや、シカは悪くないんだけど…」
ほんとはシカじゃないし、と言おうとしたけれど、口がうまく回らなかった。
私が想像してしまったのは、現実のシカじゃない。本物のシカは今でも好きだ。
その瞬間のイメージが脳内で流れ続けていた。振り払おうとしても無駄だった。
私には見えていた。ツノが引っかからずに落ちていくシカが、前のめりになって転がっていくシカが、なぜか私の番にばかり現れるシカが、動物たちでできたタワーに終焉をもたらすシカが――。


