ある朝の研究者たち(1206字)

 大きな歓声が上がる。

 今日は大方の予想通りのデータが得られたようだ。

 結果待ちの緊張が瓦解して、安堵や快哉に変わるこの瞬間――。横並びだから顔は見えないが、みんな同じ熱いものを感じる。このときばかりは日頃の悩みも憂いも消え去る。このために生きてきた、というほどではないにしても、生活の中の一番の喜びであることは間違いないだろう。

 しばしの無言の歓喜のあと、余韻を引いた声がひとりごつ。

「やはり精度が上がってきている」

 大勢いるのに誰も応えなかった。みなが黙って頷いている。

 今回の成功は、たくさんの小さな努力の上に成り立っている。

 全員がそれを理解しているから、代表して声を出す者がいないのだ。

 そして、ここにいる全員がわかっている。

 いつまでも余韻に浸っているわけにはいかない、と。

「各自、なすべきことをなしましょう。なにかイレギュラーが起きた場合は、昼の会議を待たずに知らせに来るように。解散」

 チーフの合図でみなが四方八方に散っていく。明日に向けての準備が始まる。

     × 〇

 ぼくのおばあちゃんは野さいをそだてています。

 おばあちゃんのはたけには、まねきんのかかしがあります。

 おばあちゃんはいつも、まねきんにはでなエプロンをつけます。

 赤とピンクと黄色があります。

 ほかの人のはたけは、ネットや光るテープでたいさくをしていますが、おばあちゃんはまねきんです。

 だけど、鳥が入ってくるのは、見たことがないです。

 ぼくはあのまねきんがこわいから、鳥は近づかないんだと思います。

 ぼくにはちょっとだけ気もちがわかります。

 うごかないって知っていても、近よりたくないからです。

     〇 〇

 この日はベテランたちの予想も割れていた。

 順当にいけば「赤」が自然。だが気温が高い日に赤は選ばれにくい。今日は今年一番の猛暑になる日だ。

 ならば「ピンク」か。いいや、昨日まで物干し竿にピンクは見られていない。洗濯が間に合うか微妙だ。

 となると継続して「黄色」のままか。しかし三日連続は極めてまれだ。それに昨日の風のせいで、だいぶ砂がついて汚れている。

 畦道に軽トラが入ってくる。タイムアップのようだ。

 いつもの場所で止まり、キミさんが降りてくる。いつもと変わらない様子だが、見慣れないものを携えている。

「あれは!?」

「なんということだ」

「まさか…」

 みなが見守る中、キミさんはマネキンのほうに向かっていく。
 マネキンから黄色いエプロンを外して……。

 そして、青いエプロンをつけた!

 はてさて。

 望んでいようがいまいが、明日はやってくる。

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